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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2902号 判決 1990年4月27日

原告

日動火災海上保険株式会社

被告

織田運送株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金三一万四〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一五七万円及びこれに対する昭和六二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  保険契約の締結

原告は損害保険業務を営む会社であるが、訴外間宮鋭和(以下「間宮」という。)との間で、昭和六一年一〇月一五日、同人所有の普通乗用自動車(尾張小牧五六ち五五三五)につき、保険金一七〇万円、免責なし、保険期間を右同日から一年間とする車両保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

2  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 昭和六二年九月九日午前一一時二五分ころ

(二) 場所 岐阜県多治見市富士見町地内

中央自動車道上り線三三二・五ポイント付近

(三) 加害車両 普通貨物自動車(福井一一い四七一四)

(四) 右運転者 訴外菱川周治(以下「菱川」という。)

(五) 被害車両 普通乗用自動車(尾張小牧五六ち五五三五)

(六) 右運転者 間宮

(七) 事故態様 中央自動車道(高速自動車道国道)の上り線の追越車線(以下「本件追越車線」という。)を多治見方面に向かい時速約七〇ないし八〇キロメートルの速度で北進中の被害車両が、本件追越車線から走行車線(以下「本件走行車線」という。)に進路変更した直後、本件追越車線を並進中の第三車両(以下「第三車両」という。)が突然進路変更して被害車両の前へ割り込んできたため、危険を感じた間宮が追突を避けるべく、急ブレーキをかけたところ、折りからの降雨のためスリツプして走行安定性を失い、車体後部が振れた状態になつて左側ガードレールに衝突しそうになつたので、ハンドルを右に切つて本件追越車線に進路変更し、体勢を立て直して正常走行にかかつた直後、被害車両の後方から本件走行車線を後続して来ていた加害車両が被害車両の後部バンパー付近に衝突して被害車両を押し出したため、被害車両は右にハンドルをとられて逸走し、右前後両輪が中央分離帯の側溝に落輪するとともに被害車両の右前部及び右側面が中央分離帯に接触して停止した。その直後、加害車両がスリツプして再度被害車両の後方へ突込み、加害車両の前部バンパー右角部を被害車両の左後部フエンダー付近に衝突させた。

3  責任原因

本件事故は、加害車両を運転していた菱川の前方注意義務違反、車間距離不保持等の安全運転義務違反の過失によつて発生したものであるところ、菱川は、被告の従業員として被告の業務を執行中に本件事故を発生せしめたものであるから、被告は、民法七一五条一項に基づき本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

4  損害

被害車両の修理代 一四二万円

5  保険代位

原告は、間宮に対し、昭和六二年一一月九日、本件保険契約に基づき保険金一四二万円を支払つた。よつて、原告は、商法六六二条に基づき、間宮が被告に対して有する右同額の損害賠償請求権を代位取得した。

6  弁護士費用 一五万円

よつて、原告は、被告に対し、間宮から代位取得した不法行為による損害賠償請求権に基づき、一五七万円及びこれに対する保険金支払日の翌日である昭和六二年一一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実うち、原告が損害保険業務を営む会社であることを認め、その余は不知。

2  請求原因2(一)ないし(六)の各事実は認め、その余は否認する。

本件事故態様は次のとおりである。

すなわち、加害車両が本件走行車線を時速約八〇キロメートルの速度で、前走車両との車間距離を約五〇メートルに保ちながら、多治見方面に向かい北進していたところ、本件追越車線を同方面に向けて走行して来た被害車両が、加害車両と前走車両との間に割り込んで来た。本件事故当時は激しく雨が降つていたところ、被害車両が右割込と同時にブレーキをかけたためかスピン状態となり、それを見た菱川は追突の危険を感じ、本件追越車線へ回避したところ、その直後に被害車両がスピン状態のまま本件追越車線上の加害車両の直前に入り込んで来たため、菱川は被害車両との追突を避けるべく急ブレーキをかけたが間に合わず、被害車両の左後部に加害車両の右前部が衝突し、被害車両を押し出すような形となり、被害車両の右前部及び右側面が中央分離帯に接触して、間もなく両車両が停止した。

3  請求原因3の事実のうち、菱川が被告の従業員として被告の業務を執行中に本件事故が生じたことは認め、その余は争う。

4  請求原因4ないし6の各事実は不知。

三  抗弁(過失相殺)

前記二2において述べたように、間宮が本件走行車線上の加害車両の直前に割り込み、走行安定性を失つて、本件追越車線へ進路変更した加害車両の直前に進入したため、加害車両が被害車両に追突したものであるから、損害額の算定に当たつて間宮の右過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件保険契約の締結

原告が損害保険業務を営む会社であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告と間宮との間において、本件事故前の昭和六一年一〇月一五日、本件保険契約が締結されたことが認められる。

二  事故の発生及び責任

1  請求原因2(一)ないし(六)の各事実は当事者間に争いがない。

そこで、同2(七)(事故態様)について検討する。

右当事者間に争いない事実、証人菱川周治の証言により真正に作成されたものと認められる乙第三号証、成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証の一ないし八、乙第二号証、証人間宮鋭和(後記措信しない部分を除く)及び同菱川周治(後記措信しない部分を除く)の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故前、菱川は、加害車両を運転して本件走行車線を多治見方面に向けて時速約八〇キロメートルの速度で北進しており、加害車両の直前には白つぽい色の普通乗用車(以下「甲車」という。)が走行しており、右普通乗用車と加害車両との車間距離は約五〇メートルであつた。一方、間宮は、被害車両を運転して本件追越車線を同方向に向けて時速八〇ないし九〇キロメートルの速度で走行しており、被害車両の直前には一〇トントラツクが走行しており、右トラツクと被害車両との車間距離は約二〇メートルであつた。

また、本件事故当時、事故現場付近には強い雨が降つていた。

(二)  間宮は、被害車両の直前を走行していた一〇トントラツクに前方の視界を遮られて前方が見えにくい状態であつたため、一〇トントラツクを避けようと思い、本件追越車線から本件走行車線へ進路変更して加害車両と甲車との間に進入したが、加害車両と甲車との車間距離が不十分であつたこと、被害車両と甲車の速度が合わなかつたこと等から、被害車両は、右進路変更直後、甲車との追突を回避するために急ブレーキをかけた。ところが、降雨のため濡れていた路面上で、高速で走行している状態で急ブレーキをかけたことから、被害車両はハンドルを取られて被害車両の後部を振るようにして左へ進み、本件走行車線の左端に設置されたガードレールに衝突しそうになつたため、間宮はハンドルを右に切つたが、被害車両は降雨のためスピンした状態で本件追越車線へ進入し、さらに中央分離帯の方に突つ込むような形で進み、右前輪が中央分離帯のガードレールの下にある溝に落輪した。

(三)  菱川は、加害車両の直前に進入して来た被害車両が急ブレーキをかけてハンドルを取られた状況を見て、被害車両との衝突を回避するべく本件走行車線から本件追越車線へ進路変更した。ところが、被害車両がスピンした状態で本件追越車線上の加害車両の一〇ないし二〇メートル前に進入して来たため急ブレーキをかけたが間に合わず、被害車両の右前輪が中央分離帯のガードレールの下にある溝に落輪した直後、加害車両はその右前部で右斜め方向を向いていた被害車両の左後部角を突き上げるような形で被害車両に衝突した。右衝突後、加害車両は被害車両を前に押し出しながら約一〇メートル前進して停止した。以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人菱川周治の供述部分は措信しえない。

ところで、原告は、本件事故態様につき、被害車両が本件追越車線から本件走行車線へ進路変更した直後、本件追越車線を並進中の第三車両が突然進路変更をして被害車両の前へ割り込んで来たため、間宮が右第三車両との追突を避けるため急ブレーキをかけた、その後、被害車両はスリツプして左側ガードレールに衝突しそうになつたので、間宮はハンドルを右に切つて本件追越車線に進路変更し、体勢を立て直して正常走行にかかつた直後、加害車両に追突され、そのために被害車両は右にハンドルを取られて逸走し、右前後輪が中央分離帯のガードレールの下にある溝に落輪するとともに右前部及び右側面が中央分離帯に接触して停止した、その後、加害車両がスリツプして再度被害車両の後方へ突込み、加害車両の右前部を被害車両の左後部に衝突させた旨主張し、証人間宮鋭和は右主張に副う供述、すなわち、被害車両が本件追越車線から本件走行車線へ進路変更した直後、本件追越車線から被害車両の前に白いクラウンが割り込んで来た、間宮は白いクラウンとの追突を避けるため急ブレーキをかけた、その後、本件追越車線に進路変更し、体勢を立て直して安心したところ、被害車両は加害車両によつて後方から右へ押されて右前後輪が中央分離帯のガードレールの下にある溝に落輪し、かつ、中央分離帯のガードレールに右側車体を擦りながら進んで停止した、その直後、加害車両が被害車両に覆い被さるようにして被害車両の左側車体を擦りながら通過して行つた旨供述する。

しかし、同証人は、白いクラウンは本件追越車線上の一〇トントラツクの前から本件走行車線上の被害車両の前に割り込んで来たと思う旨証言しているが、前記認定のとおり被害車両が本件走行車線へ進路変更する前、被害車両とその前を走行していた一〇トントラツクとの車間距離は約二〇メートルであつたこと、加害車両と甲車との車間距離は約五〇メートルであつたことに照らすと、約五〇メートルしか車間距離をとつていなかつた加害車両と甲車との間に被害車両に続いて一〇トントラツクの前から白いクラウンが進入して来たとすることは不合理であること、被害車両が、本件追越車線に進路変更し体勢を立て直した後に加害車両に追突されたとすれば、衝突部位は被害車両においては後部正面中央寄り、加害車両においては前部正面中央寄りとなるはずであるところ、前掲甲第三号証及び乙第一号証の一ないし四により認められる被害車両及び加害車両の各損傷部位と必ずしも整合せず、さらに後部正面に追突を受けた車両が右側へ押し出されるということも通常考えにくいことに鑑みると、同証人の前記供述部分は措信しがたい。

また、甲第一号証にも警察署からの聴取内容として「追越車線から他の車が被害車両の前へ進路変更してきて、間宮があわてて急ハンドルを切つたためスピンした」旨及び間宮からの聴取内容として同人の前記供述部分と同旨の各記載があるが、これらも右同様の理由で採用しえず、他に原告主張の事故態様を認めるに足りる証拠はなく、また、前記認定を左右するに足りる証拠もない。

2  1において認定した事故態様に基づき考察するに、本件事故の主たる原因は間宮による被害車両の無理な進路変更にあるといえるが、しかし、菱川が、被害車両の進路変更開始と同時に減速を行い、被害車両と加害車両との車間距離を十分とつておけば、本件事故の発生を未然に防止することが可能であり、かつ、かかる措置を採ることは可能であつたと推認することができる。そうとすると、菱川には車間距離不保持の過失があつたものといわなければならない。

そして、菱川が被告の従業員として被告の業務を執行中に本件事故が発生したことは当事者間に争いがないから、被告は民法七一五条一項に基づき間宮が本件事故により被つた損害を賠償する責任があるものというべきである。

三  損害

1  被害車両の修理代 一四二万円

前掲甲第二号証によれば、間宮が本件事故により損傷した被害車両の修理代として一四二万円を要したことが認められる。

2  過失相殺

前記二において認定したとおり、菱川にも事故発生防止の観点から若干の過失があるものの、本件事故の主たる原因は間宮の無理な進路変更にあり、間宮のかかる行為がなければ、本件事故の発生は未然に防止できたということができ、間宮の右損害額から過失相殺により八〇パーセントを減額し、損害額を二八万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

四  弁論の全趣旨によれば、原告が、間宮に対し、本件保険契約に基づき保険金一四二万円を支払つたことが認められる。

右事実によると、原告は、商法六六二条に基づき間宮の被告に対する損害賠償請求権を代位取得した。

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、前記四記載の保険金支払当時、右支払により代位取得された損害賠償請求権の取立てのため、訴訟手続によることが必要であると認められる事情が窺えるので、これに本件訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を併せ考えると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として、原告に三万円を認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し三一万四〇〇〇円及びこれに対する保険金支払日の翌日である昭和六二年一一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

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